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大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)771号 判決 1963年11月29日

被控訴人 三井銀行

事実

控訴人は、

「大阪手形交換所交換規則第五九条取扱要領5の(2)にもとづく提供金返戻の場合においても、一般の支払銀行は、手形債務者に対し、事故手形の債権者の同意承諾書を念のため提出せしめているのが慣行であるから、被控訴銀行は、本件提供金返戻手続に際し、(振出人)に対し、本件事故手形債権者との間の解決の有無を問いただし、本件示談内容を聞知しているものと解するが、仮にそうでないとしても、被控訴銀行としては、なすべき義務を怠つた過失があるというべきであるから、(振出人)のなした債権侵害の不法行為について、共同責任を負うべきである。」と主張した。

被控訴銀行は、

「被控訴銀行は(振出人)との間の取引については、(同振出人)が被控訴銀行に対して負担するすべての債務中その一つの履行を怠つたときは勿論、被控訴銀行において債権保全のため必要と認められたときは、被控訴銀行は、(同振出人)に何等の通知をすることなく、(同振出人)の被控訴銀行に対する預金その他金銭債権の全部又は一部をもつて、期限の当否にかかわらず、被控訴銀行の債務の弁済に充当せられても、異議がない」ことを約定していたところ、被控訴銀行は(同振出人)の申出により、手形交換所に対し取引拒絶処分猶予のための異議申立を撤回し、(同振出人)が手形交換所から手形の不渡を発表せられたので、被控訴銀行は(同振出人との取引を継続することができなくなつたため、割引手形の買戻を求める一方、手形交換所より右異議申立のためにした提供金一二万五、〇〇〇円の返戻を受けたうえ、(同振出人)に返えすべき右同額の預託金を(同振出人)の当座勘定に振込入金したが、これによつて当時の当座預金一三万〇、一四〇円と預り金六万八五四二円を当座貸越金利および手形買戻金に引当決済し、残余金九、一〇八円を(同振出人)の普通預金口座に入金し、買戻による割引手形は(同振出人)に返却した。したがつて、被控訴銀行の右措置は何等不法行為を構成するものではない。

控訴人主張のごとき注意義務は、金融機関たる被控訴銀行にはない。」と主張した。

理由

訴外ササヤ金属精工株式会社振出にかかる控訴人主張の約束手形二通額面合計一二万五、〇〇〇円につき、控訴人が所持人として各支払期日に支払場所に呈示して支払を求めたが、いずれも支払を拒絶せられたこと、右訴外会社が右各手形を詐取手形であるとして、不渡処分防止のため、その都度、被控訴銀行玉造支店に対し、手形額面と同額の合計金一二万五、〇〇〇円を預託して取引停止処分猶予のための異議申立の手続を求めたので、同支店は当時、大阪手形交換所に対し、右異議申立をなして合計金一二万五、〇〇〇円を同銀行振出の小切手により提供していたことは、本件当事者間に争なく、(証処)を総合すれば、昭和三二年五月上旬頃、控訴人の代理人三島政豊弁護士と前記訴外会社の代理人植田広弁護士との間に、前記手形金に関し、右訴外会社は被控訴銀行玉造支店に預託している前記一二万五、〇〇〇円を控訴人の同意をえて還付を受けたうえ、そのうち金八万円を控訴人に支払い、控訴人は右手形残金を免除する旨の裁判外の和解契約が成立したことが認められる。

ところで控訴人は、前示和解契約の成立と同時に右訴外会社が被控訴銀行に対して有する前記預託金一二万五、〇〇〇円のうち、金八万円の預託金返還請求権が控訴人と右訴外会社との内部関係において、控訴人に債権譲渡されたものであると主張し、被控訴人両名に対する本訴請求原因たる不法行為上の被害法益は、控訴人が内部的に取得した右八万円の預託金返還請求権であると構成するのであるが、前示和解契約の成立と同時に、控訴人主張のごとき預託金返還請求権の内部的譲渡の行われたことを認めるに足る何等の証拠もないから、控訴人の本訴請求は、その他の点について審究するまでもなく、すでにこの点において失当であるというのほかはない。

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